2013年1月27日日曜日

H23年 企業経営理論 第2問

H23年 企業経営理論 第2問

■問題


 次のM&Aに関する文章を読んで、下記の設問に答えよ。

 わが国では以前は欧米に比べてM&Aが盛んに取り組まれたとは言い難かった。
むしろわが国企業では、①M&Aよりも内部成長方式による多角化を用いることが多かった。
 しかし、近年わが国の企業のM&Aは国内のみならず海外でも活発化している。
そればかりか、それとは逆に海外企業によるわが国企業のM&Aも多く見られるようになった。
 M&Aの方式は多様であり、どのようなM&Aに取り組むかは、その目的や企業の戦略によって異なってくる。また、企業の業績に貢献するM&Aであるためには、②M&Aに関する経営上の課題に対処することが重要である。

 

(設問1)


 文中の下線部①について、多角化とM&Aに関する特徴や問題点の記述として、最も不適切なものはどれか。

(ア) 開発された技術をてこに新規事業が増えるにつれて、社内でシナジー効果を追究する機会が高まるが、シナジー効果が成長にうまく結び付かない場合、多角化を維持するための費用がかさんだり、多様な事業をマネジメントするコストが大きくなるという問題がある。


(イ) グリーンメーラー的な投機的な投資家や企業価値の実現による配当を迫る投資ファンドの動きが活発になると、企業はそれらに狙われないように企業防衛の姿勢を強めようとするため、M&Aも少なくなりがちである。

(ウ) 成長の牽引力となる技術が枯渇してくると、新規な技術による事業機会も少なくなりがちであり、技術イノベーションによる多角化戦略は困難になる。

(エ) 長期雇用慣行等に支えられて従業員のみならず経営者も会社への一体感が強くなると、このような企業がM&Aの対象になった場合、お家の一大事と受け止められ、会社ぐるみでM&Aに抵抗する動きが生じやすい。

(オ) 貿易摩擦等の外圧に押されて企業の海外進出が活発になると、国内での生産技術開発や新製品開発が回避され、内部成長方式による多角化戦略は機能しなくなる。

(設問2)


 文中の下線部②で指摘されているようなM&Aが成功するために注意すべき経営上の課題についての記述として、最も不適切なものはどれか。

(ア) M&Aで企業規模が大きくなれば、獲得した規模の経済性や市場支配力の便益を上回る管理コストが発生する可能性が高まるので、管理コストの削減を図るとともに、そのことによって経営の柔軟性が失われないように注意する必要がある。

(イ) 企業間のベクトルを合わせて統合するには、それぞれの企業で培われてきた企業文化の衝突を避け、互いを尊重しつつ、1つの企業体に融合することを図ることが重要になる。

(ウ) 買収先の企業の主要なスタッフの離職が多くなると、マネジメント能力や専門的な知識や技能などの人的資源が損なわれて組織能力が弱くなるので、買収先の企業の従業員の賃金や待遇を手厚くすることを怠らないようにすることが必要である。

(エ) 買収戦略にのめりこむと、買収先企業を適切に評価することがおろそかになり、高いプレミアム価格を相手に支払ったり、高いコストの借り入れや格付けの低い社債の過度な発行などが起こりやすく、大きな負債が経営危機を招きやすくなることに注意が必要である。

(オ) 買収によって新規事業分野をすばやく手に入れることは、イノベーションによる内部成長方式の代替であるので、M&Aの成功が積み重なるにつれて、研究開発予算の削減や内部開発努力の軽視の傾向が強まり、イノベーション能力が劣化しやすくなることに注意が必要である。

■回答

 

(設問1) ×オ


貿易摩擦等の外圧に押されて企業の海外進出が活発になると、国内での生産技術開発や新製品開発が回避され、内部成長方式による多角化戦略は機能しなくなる。

 

(設問2) ×ウ


買収先の企業の主要なスタッフの離職が多くなると、マネジメント能力や専門的な知識や技能などの人的資源が損なわれて組織能力が弱くなるので、買収先の企業の従業員の賃金や待遇を手厚くすることを怠らないようにすることが必要である。


■考察


設問1の回答にある「イ」に出てくるグリーンメーラーという言葉を知らなかったので早速Googleで調べてみました。

グリーンメーラー(greenmailer)とは、保有した株式の影響力をもとに、その発行会社や関係者に対して高値での引取りを要求する者をいう。ドル紙幣の色であると、脅迫状を意味するブラックメールを合わせた造語である。蔑称として用いられることが多い。当該行為はグリーンメール(greenmail)という。

概説

グリーンメールは、仕手の一種として、狙いを定めた企業株式を多数保有した後、その株式の議決権行使において、経営者に圧力をかけたり、当該株式を経営陣が好ましいと感じない他者に転売することを選択肢として提示したりすることにより、企業を「脅迫」し、保有株式を高値で買い取らせて大きな利益をあげる方法論である。
なお、いわゆる濫用的買収者は、グリーンメーラーに限られないものとされる。

wikipediaより引用

グリーンメーラーに関するやり取りが記された記事も参考に掲載します。

第11話 敵対的買収を飼い慣らす社会を目指して 2011年4月21日(木)
(出典)日経BP社

上記サイトに記載されている小糸事件を例にみると

  • 小糸製作所は世界最大の自動車照明器メーカーであり、トヨタ自動車をはじめとする大手自動車メーカー各社が用いる自動車照明器を製造している。
  • 1989 年3月末、米国の投資家T. Boone. Pickens氏はこの小糸製作所の株式約20%を取得したことを発表し、同社の経営に参画したい旨を宣言した。
という流れがあったようです。

トヨタ自動車株式会社の株を20%保有(13/01/25時点の時価総額が約15兆円なので、時価総額の20%は3兆円)するとなるとかなり厳しいですが(株)小糸製作所の時価総額は2,200億円。時価総額の20%は440億円になります。

理解が正しいかどうか自信がありませんが、要するに、M&Aを活発に行うことで、時価総額の少ない会社を手に入れると同時に、狙われやすい対象が増える可能性が高くなる「かもしれない」ということで "企業はそれらに狙われないように企業防衛の姿勢を強めようとするため、M&Aも少なくなりがちである。" と表現されているのだと思われます。ですからこれは正しいということになります。("少なくなる"、と断定されるのではなく、(傾向として)"少なくなりがち"になるんでしょうね、おそらく。)



では、設問1のオについて考察していきたいと思います。

貿易摩擦等の外圧に押されて企業の海外進出が活発になると、国内での生産技術開発や新製品開発が回避され、内部成長方式による多角化戦略は機能しなくなる。
 たとえば、日米の貿易摩擦について考えてみたいと思います。「日本の自動車が安すぎて困るよ!(当時は1$240円と円が安かったので日本車が安かったらしいです)」とアメリカから言われ(貿易摩擦の発生)、アメリカでは日本車の不買運動が起こりました。1985年にはプラザ合意で円とドルの為替是正、要するに円高誘導が実施されて日本の輸出が不利になるような環境になりました。

この際、輸出が不利になったため、"貿易摩擦等の外圧に押されて企業の海外進出が活発になり" 93年には現地生産台数が輸出台数を超えたらしいです。

ですから1文目は正しい表現だと思われます。

では、

  • 国内での生産技術開発や新製品開発が回避され
  • 内部成長方式による多角化戦略は機能しなくなる
は、どうでしょうか。

製品-市場マトリックス(アンゾフの成長ベクトル)で見ると、今回は生産拠点が国内から海外に移っているという状況ですから、戦略にもよりますが、国内での生産技術開発や新製品開発は海外にシフト(回避)される可能性はあるかもしれませんが、回避されることにより多角化戦略が機能しなくなるという事態に陥ることは考えづらいと考えています。

私の考えとして、もし誤りを正しくするのであれば
  • 貿易摩擦等の外圧に押されて企業の海外進出が活発になり
  • 国内での生産技術開発や新製品開発が回避される。
  • 内部成長方式による多角化戦略は機能しない
という感じかなぁと思ってますので、「オ」は多角化の特徴としては説明できていないように思えます。


続いて、設問2のウについて考察です。

ウ 買収先の企業の主要なスタッフの離職が多くなると、マネジメント能力や専門的な知識や技能などの人的資源が損なわれて組織能力が弱くなるので、買収先の企業の従業員の賃金や待遇を手厚くすることを怠らないようにすることが必要である。
私の想像の域を超えないので一度調べないといけないのですが、通常企業買収をした場合に、従業員はいったん元の組織から退職し、新たに買収元の企業に再就職するものだと思っています。

となると、おそらくは再度就職面接のようなものがあり、そこで賃金の交渉が行われる(実際には指値だと思うのですが)と思ってますから、いったん買収元の企業に転職してしまったあとは従業員の賃金や待遇は買収元のルールに従って行われるだけで特に優遇はしないはず、ゆえに「ウ」は不適切なのだと思います。
 

0 件のコメント:

コメントを投稿