2013年3月6日水曜日

H23年 企業経営理論 第12問

H23年 企業経営理論 第12問

■問題

企業組織は、一般に分業と協業のシステムとして階層性という特徴を持っている。この組織編成に関する記述として最も適切なものはどれか。

(ア) イノベーションを目的とした組織においては指揮命令系統の一元性が確保されていなければならないので、階層組織よりはグループ型のフラットな組織が望ましい。

(イ) 管理者の職務に関する事業の範囲やタイムスパンの責任に応じて、組織は階層を設計する必要がある。

(ウ) 組織における職務の公式化を進めることによって、管理者の統制範囲(span of control)は狭くなるので、階層数は増える傾向にある。

(エ) 組織の階層を構成する中間管理職の職務について、責任と権限が公式に一致しなければならない。

(オ) 不確実性が高い環境下では、分権化を進めるために、階層のないフラットな構造にすることが望ましい。


■解答

○ (イ) 管理者の職務に関する事業の範囲やタイムスパンの責任に応じて、組織は階層を設計する必要がある。

■考察

組織について考える問題です。まずは組織』の言葉の定義について確認したいと思います。

言葉の定義

組織 (社会科学)
社会科学における組織(そしき、英: organization)とは、共通の目標を有し、目標達成のために協働を行う、何らかの手段で統制された複数の人々の行為やコミュニケーションによって構成されるシステムのことである。

経営学における組織
経営学においてしばしば引用されるチェスター・バーナードらは、組織を協働の体系(システム)として捉えている。

  • 意識的に調整された、2人またはそれ以上の人々の活動や諸力のシステム (Barnard, 1938)
  • 1人の人間の力では実現できないような困難な目標を達成しようとするときに生じる複数の人間の協同(経営学用語辞典、1997)
組織における意志決定プロセスに注目したハーバート・サイモンは、コミュニケーションのパターンに注目している。
  • 意志決定とその実行の過程を含めた、人間集団におけるコミュニケーションとその関係のパターン (Simon, 1945)
wikipedia組織 (社会科学)より引用


では、組織の定義を理解したとことで、次に構造について理解したいと思います。
組織構造には組織構造の設計原理というものがあるようです。

組織構造の設計原理
  • 専門化の原則

    組織の活動が特殊化された役割に分割された状態(専門)にするという原則。
    例えば、営業部(営業活動に特化する)、生産部(生産活動に特化する)というように役割を分割して得意とする分野を、知識のや能力の集中的な利用や反復利用ができるような状態を作りましょう。という内容です。
  • 権限責任一致の原則

    各組織の構成員(例えば社員)に与えられる権限の大きさは担当する職務(仕事)相応しい事と、相応しい責任が負わされなければならない、という原則です。例えば新入社員で役職もない人社員(担当者)に、企業間提携の合意(契約の締結)の権限や責任を押し付けてはだめです。という事です。
  • 統制範囲の原則(スパンオブコントロール)

    統制範囲とは1人の上司が有効に指揮監督できる直接の部下の人数の事です。管理者の数を削減したくて、統制範囲を広げようとしても管理限界を超えると管理効率が下がります、という原理であり、一定量を超えないようにしましょう、という原則です。

    統制範囲を広げるためには
    • 管理者の例外処理能力を上げる
    • 下位メンバーの能力を高めて例外処理の判断ができるようにする
    • 公式化標準化を進めて管理負荷を下げる
    • スタッフ部門を強化して管理負荷を下げる

    という工夫が必要になります。
  • 命令統一性の原則

    組織秩序維持のために、職位(課長や部長など)の上下関係において、各組織構成員は常に特定の一人の上司からだけ命令を受けるようにしなければならない、という原則です。他部門から指示されたり、とんでもなく上位の人から「このプロジェクトしなさい」と指示を受けたりしてると混乱してしまいますよという事です。
  • 例外の原則(権限移譲の原則)
    意思決定には
    • 定型的意思決定
    • 非定型的意思決定

    があり非定型的意思決定の中に戦略的意思決定があります。定型的意思決定はあらかじめ決められた手続きで処理が可能なものを指すため、これら、定型処理が可能なものについては下位の職位の人に権限を委譲し、非定型的意思決定に専念すべきである、という原則です。
続いて、分業と協業について確認していきます。

分業と協業


組織には、複数人で共通の目標を達成するにあたって必要な組織全体の仕事やタスクの分業と調整を行うメカニズムが必要である。共通の目標が人々によって共有されていても、個々人が個別的に仕事を遂行するならば、それは組織とは言わない。
  • 分業:組織全体の仕事を分割し、個々人に割り当てること
  • 調整:分割され個々人に割り当てられた仕事を統合し、組織全体の仕事として完成させること
wikipedia組織 (社会科学)より引用

組織構造の設計原則に基づいて専門化(分業化)するとともに、調整を行うメカニズムが必要になってきますが、まずは、分業の種類である機能分業階層分業について確認します。


図のように、
  • 機能分業では水平方向に業務を分化(製造や購買・・・)します。の例のような組織形態は機能別組織と呼ばれています。
  • 階層分業では垂直方向に人間行動を階層分けて、管理階層を設けます。ここで人間行動は管理行動である経営者行動(トップマネジメント)と管理者行動(ミドル、ロワーマネジメント)、作業行動の3つに分けることができます。図の例ような組織形態は事業部制組織と呼ばれています。
分業化で組織全体の仕事を分割し、個々に仕事を割り当てたら、次に組織として機能するようにするための、“分業と調整あり方を決定する 組織編成について確認します。

ラインとスタッフ(組織構造の基本概念)
まず、組織構造を決めるうえでの基本概念であるライン(直接的職能)とスタッフ(間接的職能)について確認します。
  • ライン:経営活動の基本職能
    (生産部門、購買部門、販売部門など、欠落すると経営活動が成り立たなくなるような職能)
  • スタッフ:ラインの活動を支援する職能
    (財務部門、広報部門、総務、システム関連部門などラインの活動を支援する職能)
スタッフはラインへの助言・補佐を行うことを目的としており、ラインへの直接的な命令の権限を持ちません。


組織 構造の種類

組織構造の種類は様々あるようですが、主に次の3つがあるようです。

組織構造の種類 メリット デメリット
機能別組織 ・分業による専門性の発揮
専門化の原則
・分業による規模の経済の発揮
・組織統制を図りやすい
命令統一性の原則
・全体的な意思決定に専念しやすい
・利益責任の所在が不明確
・全体が見れるマネージャーが育ちにくい
・組織間の連携が悪くなる
・1人の上位者に権限が集中し、責任過大となり負担が大きい
事業部制組織 ・トップマネジメントの管理業務負荷軽減に伴い、戦略意思決定の割合増。
・全体が見れるマネージャーを育成しやすい
・仕事の責任分担が明確になる
・従業員の勤労意欲が向上する
・セクショナリズム、部分最適化が起こりやすい
・全社利益よりも部門利益を追求してしまうこりやすい
・管理スタッフや研究開発などの重複で人件費増大

マトリックス組織 ・機能別組織の特徴である専門性と事業部制組織の特徴である権限の分権を両立できる
・人的資源が共有できるため、課題に柔軟に対応できる
・情報共有化が速い
・上司が2人になることから組織内のコンフリクトが発生しやすい
・責任の所在が不明確になる

官僚制組織と組織構造の動態化

官僚制組織

効率を追求する組織は官僚制組織の色を濃くしていくため、官僚制組織が"過度"に進行した場合官僚制の逆機能と呼ばれる問題が生じることがあります。

官僚制組織とは

高度に専門化された職務が、権限・責任を基礎としたピラミッド型の階層を形成し、その中の構成員は規則に基づいた没主観的判断によって職務を遂行することを要求される組織構造特性[1]

の事で役所仕事、マニュアル人間と悪く言われているようなものが官僚制の逆機能という問題の一部に当たります。具体的には下記の6項目
  1. 訓練された無能 ・・・ 個人の意思決定のパターンが硬直化
  2. 最低許容行動 ・・・ 規則通りの行動しかしなくなる
  3. 顧客の不満足 ・・・ 人間関係の非人格化に伴った顧客目線の欠落
  4. 目標置換 ・・・ 規則の順守(手段)が目的になってしまう
  5. 個人的成長の否定 ・・・ 効率的面が追求されすぎるあまり、個人の成長が阻害される
  6. 革新の阻害 ・・・ 革新を行う力や動機がなくなる
しかしながら、組織のライフサイクルの過程をたどる中で、官僚制組織は必要になってきます。なぜなら効率がいいからです。ここで問題にすべきは官僚制組織の中でいかに硬直化を防ぐか、という点だと思います。
動態化

組織の硬直化を克服すべく、以下のような管理手法があるようです。
  • 組織構造のフラット化
    中間層をなくすことで柔軟かつ迅速な意思決定を実現する
  • プロジェクトチームの導入またはマトリックス組織の導入
    特定の課題を解決することを目的に、縦の組織だけでなく横の組織を作る。
  • リエンジニアリング
    業務プロセスを抜本的に見直して企業体質や構造を変革する。
  • 組織変革やモチベーション向上対応など
ここで一度問題に戻ります。

(ア) イノベーションを目的とした組織においては指揮命令系統の一元性が確保されていなければならないので、階層組織よりはグループ型のフラットな組織が望ましい。

指揮命令系統の一元性が確保されていなければならない、という記述が大きな誤りであると考えます。イノベーションを目的とするならば、様々な意見交換や情報流通が大事になると考えます。その際には、、柔軟な課題解決が可能な組織体制が必要になると思われるためフラット組織よりもプロジェクトチームやマトリックス組織のようなものがより適しているように思います。

(イ) 管理者の職務に関する事業の範囲やタイムスパンの責任に応じて、組織は階層を設計する必要がある。

タイムスパンと書かれているのでプロジェクトのようなものも想定された文章だと思われます。長期なら長期の、事業の規模・範囲に応じた組織を作る必要があるので正解ではないでしょうか。

(ウ) 組織における職務の公式化を進めることによって、管理者の統制範囲(span of control)は狭くなるので、階層数は増える傾向にある。

組織設計の設計原則にありましたが、職務の公式化を進めることによって、管理者の統制範囲は広くなります。

(エ) 組織の階層を構成する中間管理職の職務について、責任と権限が公式に一致しなければならない。

権限責任一致の原則に“各組織の構成員(例えば社員)に与えられる権限の大きさは担当する職務(仕事)相応しい事と、相応しい責任が負わされなければならない”とあるのですが、公式にが意味不明です。公式というのが「文面化された」という事を意味するならば、文面化されてなければ問題になるのかという話になってきます。そういう問題じゃなく、責任と権限は一致しないといけないと思われますので不適切かなぁ・・・。

(オ) 不確実性が高い環境下では、分権化を進めるために、階層のないフラットな構造にすることが望ましい。

分権化を進めたいなら機能分業と階層分業をを進めないとだめなので、フラットな構造にはならずピラミッド構造(ヒエラルキー)になります。また不確実性が高い環境下では柔軟な対応が必要になるケースが多いので、分権化を進めることが誤りです。

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